台湾の外国人労働者ゼロ手数料政策に経済界が反発、伝統産業の空洞化を懸念する声が噴出
台湾・労働省(Ministry of Labor)が推進する外国人移民労働者向け「ゼロ手数料(zero-fee)」政策をめぐり、経済界を中心に強い懸念の声が広がっている。Taipei Timesが2026年7月3日に掲載した論説記事では、全国就業服務機構連合会(National Federation of Employment Service Association)の名誉会長・黄高傑(Huang Kao-chieh)氏が、現在の経済環境下でのゼロ手数料政策推進に強い疑問を呈した。
「ゼロ手数料」政策とは何か
台湾・労働省が推進する「ゼロ手数料」政策とは、これまで外国人移民労働者が負担していた採用・仲介手数料を、台湾の雇用主側に転嫁するという制度改革だ。労働者保護の観点からは、外国人労働者が就労前に多額の借金を抱えて渡航するという構造的問題への対応策として位置づけられている。
台湾では長年、外国人労働者が就職斡旋業者に対して渡航前に多額の手数料を支払うことが常態化しており、国際労働機関(ILO)はこうした「債務による拘束」を強制労働の指標の一つとして位置づけている。ゼロ手数料政策はこの問題の解消を目的とした改革だ。
経済界が「今は時期尚早」と強く反発
しかし経済界の反応は冷ややかだ。黄名誉会長の論説では、AI関連企業や台湾積体電路製造(TSMC)といったハイテク企業ではなく、コスト増加の波に直面する伝統的製造業こそが「矢面に立つ」と指摘した。
懸念の背景には、すでに深刻化している伝統産業の経営悪化がある。2026年に入ってからも工場閉鎖が相次いでおり、ブリヂストン台湾(Bridgestone Taiwan Co)は新竹工場の閉鎖を発表し、550人超の雇用に影響が出た。台湾資生堂(Taiwan Shiseido Co)も翌年に新竹工場を閉鎖する方針を表明。高雄・林園区の台湾プロスペリティケミカル(TPCC)の工場閉鎖も100人超の雇用に打撃を与えた。さらに、45年以上の歴史を持つ繊維企業・新新(Hsin Sin)も長期赤字を理由に操業を停止し、約90人が職を失った。
論説では「これらは孤立した事例ではなく、台湾の伝統産業が凍りついている証拠だ」と断じ、この状況下で外国人労働者の採用コストがさらに上昇すれば、倒産・人員削減・海外移転の加速につながると警告した。外国人労働者だけでなく、台湾人労働者の雇用喪失にも直結するという。
労働省に3つの検証を求める声
経済界はゼロ手数料政策の即時中止ではなく、労働省に対して3つの検証を求めている。第1に、ゼロ手数料政策が企業コストと労働市場に与える影響の包括的な評価を完了させたか。第2に、この政策が工場閉鎖を加速させ、海外移転を促す可能性について評価したか。第3に、より高い失業率をもたらした場合、省としてどう責任を取るのか、という問いだ。
論説は「公共政策は理想だけで動かすことはできず、経済的現実も反映させなければならない」と結論づけた。工場が次々と閉鎖される中、企業コストを引き上げるいかなる政府政策も、個々の企業だけでなく台湾の雇用市場全体を傷つけるリスクがあると警鐘を鳴らした。
労働者保護と産業現実のはざまで
一方で、外国人労働者側の視点からは、ゼロ手数料政策への期待は大きい。台湾で就労する外国人労働者が渡航前に支払う手数料は5,000〜6,600米ドルに上るとの報告があり、多くの労働者は借金を抱えたまま渡航し、返済に数年を要する状況が続いている。債務による経済的拘束は、劣悪な環境を離れることを難しくし、人権侵害の温床ともなっている。
台湾政府は外国人労働者の保護強化と、雇用主・産業界の経営維持という二つの要請のはざまで難しい政策判断を迫られており、ゼロ手数料政策の実施時期・規模・条件設定をめぐる議論は今後も続く見通しだ。
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